「AIを使った方がよいのだろうか」と考え始めたとき、最初に製品名や機能を比べる必要はありません。先に確認したいのは、今の仕事がどのように進み、どこで人が判断し、何が変わると困るのかです。
結論から言えば、仕事を良くする選択肢はAIだけではありません。状況によっては、通常の自動化、ExcelやPower Query、あるいは今の手順を残す方が合います。大切なのは、導入する道具ではなく、解決したい問題と確認責任を先に決めることです。
最初に知っておきたいこと
経済産業省が2026年に公表したAI事業者ガイドライン第1.2版は、AIを開発・提供・利用する立場を含む事業者向けの考え方を整理しています。IPAの「DX動向2026」も、AIの活用状況だけでなく、効果や課題、ガバナンス、組織体制、人材まで調査対象にしています。
これらから読み取れるのは、AIを使うことと、会社の仕事を良くすることは同じではないという点です。実務では、入力データ、利用目的、担当者、確認方法、間違えたときの影響まで含めて考える必要があります。
KOTOKUMUでは、道具を決める前に、次の4つを並べて検討します。
- AIが向いている
- 通常の自動化で十分
- Excel・Power Query等で十分
- 今は変えない方がよい
判断の前に、仕事を小さく分ける
「請求業務をAI化したい」のように業務全体を一つにまとめると、選択肢を比べにくくなります。まず、実際の作業を次の単位へ分けます。
- 何を受け取るか
- 決まったルールで処理できる部分はどこか
- 文脈を読んで判断する部分はどこか
- 結果を誰が確認するか
- 間違えたときに、どこまで戻せるか
- 個人情報や機密情報を扱うか
同じ業務の中でも、集計はExcel、定型転記は通常の自動化、文章の下案はAI、最終判断は人、というように役割を分けられます。一つの技術ですべてを置き換える必要はありません。
判断1:AIが向いている場合
AIは、入力の形や表現に揺れがあり、単純な条件分岐だけでは扱いにくい作業の補助に向くことがあります。
たとえば、問い合わせ文をテーマ別に仮分類する、長い会議メモから確認候補を拾う、文章の下案を複数出す、といった使い方です。ただし、AIの出力をそのまま確定情報にするのではなく、人が確認できる工程を残します。
向いているかを考える質問は次のとおりです。
- 毎回の入力表現が同じではないか
- 正解が一つに決まらず、候補を出すことに価値があるか
- 出力を確認する担当者と基準があるか
- 入力してよい情報の範囲を決められるか
AIが候補を作っても、人の確認時間が増えすぎるなら、改善にならない場合があります。試すときは、実データを送らず、匿名化した短い例から確認します。
判断2:通常の自動化で足りるか
入力とルールと出力が明確なら、AIを使わない自動化の方が結果を説明しやすくなります。
たとえば、「ファイル名から日付を取得する」「決まった列を別の表へ転記する」「期限を過ぎた行へ確認印を付ける」といった処理です。同じ入力に対して同じ結果を求める仕事は、条件を明示したプログラムや既存機能で扱いやすい領域です。
通常の自動化を検討しやすいのは、次のような場合です。
- 手順を担当者が言葉で説明できる
- 例外の種類が限られている
- 結果の正誤を機械的に確認できる
- 処理履歴やエラー箇所を残したい
一部入金や名義違いのように人の判断が必要な場合は、自動確定せず「要確認」として整理する設計も考えられます。自動化の目的は、人の判断を消すことではなく、判断する対象を見つけやすくすることです。
判断3:Excel・Power Query等で十分な場合
毎月同じ形式のExcelやCSVをまとめる作業なら、現在のExcelを残したまま改善できることがあります。
たとえば、同じ列を持つ月次ファイルを一つのフォルダーへ置き、Power Queryで結合・整形し、集計表を更新する方法です。担当者がExcelに慣れていて、入力形式が安定し、利用人数も限られているなら、専用システムを作る前の現実的な選択肢になります。
確認したいのは、次の点です。
- 列名とデータ型が毎回そろっているか
- 関係のないファイルが混ざらないか
- 空欄、重複、表記揺れをどう確認するか
- 出力後に人が見る場所を決められるか
Excelで十分という判断は、改善を小さく見積もることではありません。今ある環境で運用でき、担当者が内容を追えることは、継続しやすさにつながります。
判断4:今は変えない方がよいか
改善案があっても、すぐに変えない方がよいことがあります。
たとえば、業務ルールが来月変わる予定がある、入力元の形式が毎回大きく違う、担当者間で正しい手順が一致していない、間違えたときの影響が大きい、といった状況です。こうしたときに仕組みを先に作ると、不安定な手順を固定してしまいます。
まず手順を書き出し、例外を集め、責任者と確認方法を決めるだけでも前進です。「今は変えない」は何もしないことではなく、変える条件を整える判断です。
4つの選択肢は、排他的ではない
実際の仕事では、4つのうち一つだけを選ぶとは限りません。
たとえば、複数ファイルの結合はPower Query、定型チェックは自動化、自由記述の仮分類はAI、承認は人、という組み合わせが考えられます。重要なのは、それぞれの境界が分かり、失敗したときにどこを確認すればよいか説明できることです。
よくある勘違い
AIなら例外にも対応できる
例外を読み取れるように見えても、期待どおりの判断を保証できるわけではありません。例外が業務上重要なら、AIに確定させず、人が確認する候補として整理します。
自動化すれば確認は不要になる
入力ファイルの不足や形式変更まで消えるわけではありません。件数、重複、エラー、出力先を確認する工程は残ります。
専用ツールを作れば長く使える
業務ルールが定まっていなければ、ツールも頻繁な修正が必要になります。先に運用を整理する方がよい場合があります。
KOTOKUMUの考え
AIを使うかどうかは、相談の入口で決まっていなくて構いません。現在の仕事、使用中のExcelやCSV、確認が必要な部分、変えてはいけない部分を整理し、使うならどこまでにするかを考えます。
AIが向いていなければ使わず、Excelで十分ならExcelを選びます。大きな導入から始めず、匿名・架空データで小さく試し、人が確認できる形を残すことを重視します。
まず何から始めるか
改善したい作業を一つ選び、次の内容をメモしてください。
- 何を受け取るか
- 何を繰り返しているか
- どこで迷うか
- 誰が結果を確認するか
- 間違えたときに何が起きるか
道具の名前がなくても、この情報があれば選択肢を比べられます。考え方を詳しく確認したい場合は、AI・DXの進め方相談をご覧ください。
確認した一次情報
この記事では、経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版と、IPAの「DX動向2026」の案内ページを2026年9月1日に確認しました。公式資料の全文を転載せず、AI活用を業務、ガバナンス、組織、人材とあわせて考える必要があるという背景を参照し、判断方法と具体例はKOTOKUMU独自の整理として記載しています。